年50冊小説を読まんとする若輩のblog

それ以上でも以下でもなく。

#7 「舟を編む」三浦しをん

読み易さ☆☆☆☆☆

面白さ☆☆☆

読む価値☆☆☆

 

出版社の辞書編集部を舞台としたお仕事小説。2012年に本屋大賞を受賞し、アニメ化もされた作品です。

主人公、馬締はその名の通り真面目な男で、少々、というかだいぶ浮世離れした人柄です。スーツはヨレヨレ、髪はボサボサでいつも考え事をしているせいで、ぼんやりした社員だと思われています。

しかし「言葉」に対しては並々ならない感心を持ち、複数の辞書を暗記しているのでは?と思わせるほど言葉のセンスに長けています。

冒頭では出版社の営業として真面目に働くものの上司からはお荷物扱いされていましたが、辞書編集部にそのセンスを買われて異動となります。そんな彼が周りに支えられ、また自身も成長し、一つの辞書を完成させていく物語です。

 

この小説の良さは、社会人であれば誰しもが共感できるところがあることでしょう。物語は複数人の視点から描かれており、主人公の馬締の他に、社交力溢れるがこれという才能を持っていない同僚や、新人の若い女性社員が語り手となっています。

同僚の口からは才能を持つ馬締に対する嫉妬と、大切な仲間としての親しみなどが語られ、新人からは未知の仕事に取り組む不安などが語られています。このように複数の語り手から仕事に対する思いが語られるため、そのうちのいくつかは確実に、社会人読者の心に響いてくることでしょう。

 

辞書製作の小説であるためか、使われている表現には馴染みの薄いものや難しいものもあります。しかし、全体的に気取りのない文体で読み易く、随所に仕込まれているユーモアと言葉に対する興味深い考察などが面白いため、苦もなく読める良い小説だと思いました。

 

蛇足

 

社会人一年目の自分には仕事で感じてしまう名状しがたい不安やストレスなどがありますが、この作品を読んだことでそれらを言葉に直して整理し、また不安を他者の感覚として体験できたことで気分を楽にさせてもらえました。

この作品はお仕事小説ですが、かの半沢直樹のように大事件が起こるわけでも、権力との闘争が描かれる訳でもありません。一つの辞書を完成させるためにお互いが支え合い、長い年月をかけて信頼を深めていく過程が描かれており、仕事で疲れた読者の心をほぐしてくれる物語でした。熱狂的に、とはなりませんが、ゆるく人にオススメできる小説ですね。

今回は以上になります。またお読みいただけると幸いです。(*´ー`*)