年50冊小説を読まんとする若輩のblog

それ以上でも以下でもなく。

#11「斜陽」太宰治

読み易さ☆☆☆

面白さ☆☆☆

読む価値☆☆☆

 

太宰治が「人間失格」の1つ前に書いた小説であり、自殺の前年に遺した作品。察していただけるであろうとおり、その作品全体が絶望の匂いで満ちています。

戦後の没落貴族の娘、かず子を主人公とし、結核により死にゆくその母、麻薬中毒者の弟、弟の悪い師匠である作家の4人が、それぞれの滅びへと向かっていく姿を描くストーリーです。

前半のうちは叔父の援助を受けて生かされている生活の中で、絶望の底にありながらも母娘の愛に溢れた「平和」な日常を送ります。後半になると叔父の援助も途絶え、母の病状もいよいよ悪くなり、弟は酒に溺れるなかで、かず子は「自分が嫁いで金を用立てるしかない」と考えます。

その決心をする際のかず子の台詞、『戦闘、開始』。貴族としての誇りを捨て、生活のために好きでもない男に言いより、妻子が居ようが構わず、情熱的な言葉を騙り、枕へ誘い込む。

 

太宰治の作品は、読者を引き込む力が強い。主人公の独白部分が単なる説明ではなく、不自然ではない程度に読者に語りかけるようになっている、非常に珍しい二人称小説だ。自分の感想を語っていることは一人称小説と変わらないが、まるで隣で語って聞かされているような感覚を抱く。ともかく、心に寄り添ってくる文体といえる。

そうした巧みな技術で引き込む先が、絶望という安穏。太宰治が長く多くの人の心を捉える反面、評価しない人もいる理由がよく分かる。

 

なんだか色々語ってしまいましたが、一度は読んでみるべき作品だと思います。少なくとも「人間失格」と比べるとまだユーモアがあって面白く、共感もしやすい小説だと感じました。

 

 

蛇足

 

読み終わって数日経ちますが、未だに何かを引きずっています。基本的に自分は小説が与えてくれる感動であれば何であれ歓迎する姿勢でいるのですが、斜陽がもたらした「重さ」は、ちょっと厄介ですね。

 

『人間として最大の美徳は、上手に金をかき集めることである。 つまり、どんなことがあっても他人の厄介になるなということだ。 』(ドストエフスキー

 

この名言の見方が変わるぐらいには衝撃的でした。生きるって大変ですね。

 

次回は気分を変えて、有川浩さんでも読もうかと思います。ここまでお読みいただきありがとうございましたm(_ _)m