#6 「砂の女」安倍公房
読み易さ☆☆☆☆
面白さ☆☆☆
読む価値☆☆
世界20数カ国語に翻訳された、安倍公房の名SF小説。
〜以下簡単にあらすじ〜
教師の職についている主人公は、休暇を使って趣味の昆虫採集に出かける。砂丘であれば珍しい虫がいるかもしれないと考え、砂丘とほとんど一体化している寂れた部落に行き着いた。
そこで主人公は村人に騙され、四方を砂の壁で囲まれた穴、まさに蟻地獄の底へと閉じ込められてしまう。主人公は作中、懸命に脱出を試みる。
穴の底には朽ちかけた家があり、女が1人住んでいた。女もまた、穴に落とされた被害者である。しかし、女は主人公とは違ってそこでの生活に満足し、脱出する気はまるでなかった。『表に行ってみたって、べつにすることもないし……』
村人達が主人公のような旅行者を監禁するのには理由があった。この部落は砂丘に存在するが故に、雪かきならぬ、砂かきを毎日しないと、あっという間に海からの風で飛んできた砂に埋もれてしまうのである。当然、そのような部落に人が住みたがるわけもなく、人口流出は深刻な問題であった。
そこで考え出されたのが、例の穴である。あらかじめ海の近くに大きな穴を掘っておき、砂がそこに集中するようにする。そして穴の底に労働力として人を住まわせ、砂かきに従事してもらう。砂かきを少しでも怠ると家ごと砂に埋まってしまうため、憐れな囚われ人はその一生を砂かきだけに費やすことになるのだった。
安倍公房さんは社会問題をSFに再構築することを得意とするSF作家です。この砂の女は、脱出モノのダークファンタジーとして楽しむこともできますが、物語に溶かし込まれた風刺を味わえばより楽しめることでしょう。
現実でも貧しい地方の自治体では人口流出が大きな問題となっており、なんとかして若者や労働力を引き入れようとしています。その点この砂の女の部落は画期的です。物理的に労働力を穴の底へ引き入れたうえで、半強制的かつ永久的に働いてもらえるのですから。
そういった風刺を楽しむ精神を持ち合わせている方には、広くオススメできる小説だと思いました。
蛇足
脱出。これほど共感されやすいテーマもないように思います。何かから逃れたい、自分を脅かす事物から逃げたいという願望は、ほとんど誰しもが抱いているものでしょう。
フリーゲームで有名なの青鬼にせよ、海外ドラマのプリズン・ブレイクにせよ、あれだけ人気が出たのは脱出というテーマが持つ普遍性の力が大きかったように思います。
その脱出が持つ力で読者を引っ張りつつ、社会問題に切り込んでいった砂の女は、評価されて然るべき作品だと思いました。
気づけば1000文字を軽く超えてしまっていたのでさらりと終わろうと思います。お読みいただきありがとうございましたm(_ _)m