#4「草枕」夏目漱石
読み易さ☆☆
面白さ☆☆☆
読む価値☆☆☆
※独断と偏見による。
国民的小説家、夏目漱石の初期作品。漱石自らが『小説としては読まれないだろう』と自認する異色な小説。
ストーリーとしては1人の画工、絵描きが人里離れた山村に赴き、俗なものを避けて自身の芸術的感性に思う存分浸るという内容です。
身もふたもない言い方をしてしまうと、この小説は主人公が山や空、影や茶器、椿や木蓮といった題材に対して「此処が美しい」と語り続けるだけの小説です。筋の通った物語なんてありません。
それでもこの小説が面白いのは、漱石の人並み外れた観察眼や語彙に対して、尊敬の念を禁じ得ないからでしょう。
漱石の生きた明治時代には純文学や大衆文学といった括りはなかったそうですが、言葉を尽くして美しさを表現する草枕は純文学のなかの純文学という印象を受けました。
そのため大衆文学のような分かりやすい面白さはなく、人によっては時間の無駄とさえ感じてしまうであろう冗長な描写で満ちていますが、そういうものが好きな人には是非読んでほしい小説でした。
蛇足
個人的にはなかなか面白かったですが、一般受けを考えて☆の評価をつけました。あの評価は「※独断と偏見による」とわざわざ断っていますが、自分ではなるべく客観的な評価をしようと努めていたりします。
さて、この小説で特に興味深かったのは冒頭の、世の小説等に対するアンチテーゼです。以下少し長めに引用させて頂きます。
『苦しんだり、怒ったり、泣いたりは人の世につきものだ。余は三十年の間それをし通して、飽き飽きした。飽き飽きした上に芝居や小説で同じ刺激を繰り返しては大変だ。』
主人公は人情を鼓舞する小説、人の心を掴み、登場人物と一体化させ、感情を揺り動かすような小説。そんな小説を良しとせず、人情から解脱した芸術こそ好ましいとしています。
この考え方に自分はハッとさせられました。
私は人の心を動かすこと、感動させることこそが芸術の本分だと思っていました。それなくして芸術は娯楽たり得ないという思いは、半ば信仰のように私の中にありました。
しかしながら、あえて感動させないこと。受け手の心を手荒く揺すぶることなく、手を添え、温もりを伝えるにとどめること。
芸術にそういった価値があることに気づかせてもらえたただけでも、私にとって草枕は相当に価値のある一冊となりました。
気づけば本編レビューより蛇足の方が長くなってしまいました(汗) こんなブログですが、よろしければお付き合い頂けると幸いです。長文失礼いたしましたm(_ _)m