年50冊小説を読まんとする若輩のblog

それ以上でも以下でもなく。

#2「赤と黒」 スタンダール著 小林正訳

読み易さ☆☆☆☆

面白さ☆☆☆☆

読む価値☆☆☆☆☆

※独断と偏見による。

 

1831年のフランスで発刊された恋愛小説です。

百姓のせがれとして生まれた主人公ジュリヤンが、その人並み外れた野心と才能から貴族社会に入り込み、あまつさえ自分が仕える主人のご令嬢と恋仲になってしまうストーリー。

 

貴族社会を描いた作品、たとえば「ハムレット」などでは主人公もヒロインも貴族であり、優雅な生活を背景に描かれます。そしてそれが日常として扱われているが故に、現代の大衆からすれば遠い世界の物語という印象を受けるでしょう(少なくとも小市民なブログ主にとってはそうでした。)

一方で「赤と黒」の主人公は百姓の青年、いわばよそ者です。彼の目からは貴族社会が新鮮で華やかな世界として描かれており、我々にも共感しやすいものでした。

 

さて、この主人公ジュリヤンは利己主義で、何よりも自己尊厳を優先するような、あまり王道的作品では主人公になれないであろう欠点のある人間です。たとえば彼は自分を救ってくれた恩ある主人に対して、《俺はこの方からの恩義を裏切るつもりか?いや、こいつもいざとなれば俺を切り捨て、処刑台に運んだうえに2週間後には俺を忘れるに違いない!三流階級の俺とこいつとでは住む世界が違うんだ!》(抜粋ではなく意訳)というようなことを平気で考える人間です。そういうところが人間臭くて可愛かったりするのですが。

 

そんな彼の恋愛はご主人の夫人を、「男の誇り」を守るために誘惑するところから始まります。そう、まったく恋心などありはせず、自尊心のためだけに恋を始めるのです。この誇り高さといいますか、笑い者になりたくない一心で馬鹿げた行為でもやってのけてしまう行動力こそが、この小説の一番の面白さではないかと思います。滑稽ですが、憧れちゃいますね。

 

ところでこの小説は1831年当時の世相を取り入れつつ書かれており、ナポレオンの躍進から七月革命直前までのフランスの社会を描いています。あの激動の時代、人々は何を思って生きていたのか?小説としての面白さに加え、当時を知ることができる歴史的史料としても価値ある小説でもあります。その特徴のため、受験のために世界史を勉強している現役高校生にこそ読んで欲しい作品ですね。(毎回これ言ってる気がする)

 

 

蛇足

 

レビュー2作品目です。800ページ超の海外文学ということで敬遠してきた小説でしたが、蓋を開けてみれば個人的に今まで読んだ小説の中でもトップテンに入る名作でした。読み易さ・面白さ・読む価値。自分が小説を評価するうえで特に重視している3要素ですが、それをここまでハイレベルに満たす小説にはなかなか巡り会えないものです。

 

このブログを読んでくださっている方々は、少なからず小説に対して自身の評価軸をお持ちだろうと思われますが、よろしければお聞きしたいものです。自分にももっと良い着眼ができれば良いのですが…

ともかく、現在の私の評価軸からすれば、「赤と黒」は自信を持って人にオススメできる小説

でした。

 

最後に、同小説から特に印象深かった一文を引用させていただいて終わろうかと思います。お読みいただきありがとうございました!またお会いできれば幸いです。

 

 

『おれがおめおめひきずられて、この女にうつつを抜かすようになったら、この目はやがて世にも冷ややかな軽蔑の色しか浮べなくなるのだ』