#12「田園交響楽」ジッド 神西清訳
読み易さ✩☆☆☆☆
面白さ✩☆☆
読む価値✩☆☆
大戦期の仏作家、ジッドの短編小説。生まれつき盲目の少女を引き取り育てる神父の物語。
少女は少女に関心がない祖母と二人で暮らしてきたため、盲目であるだけでなく言葉を理解することもできず、言葉の代わりに鳴き声を発します。身なりの汚さ、伸び切った髪のせいもあり、まるで獣のような少女でした。神父は少女の祖母の葬儀に立ち会ったのち、この身寄りのない少女を自分が育て、愛を教えてあげることこそ、神に与えられた自分の使命であると考えます。
神父はその宗教的情熱のもと、いっぱいの愛を少女に注ぎました。やがて少女は言葉を覚え、話ができるようになり、見た目も美しく育ちました。その美しさは、神父の息子が求婚を考えるほどでした。
少女は自分には見えない世界を、希望に満ちた様子で語ります。彼女は、世界はオーケストラで聞く音楽のように、豊かな喜びに溢れていることでしょうと夢見ています。
神父の愛は本物でした。しかし、少女には嘘をついていました。この世界が、現実が、美しいものだけでできているわけではないこと、罪という概念を、教えようとはしませんでした。
やがて少女は手術によって、生まれて初めて世界をその目にしました。心の底から信頼していた神父が、ずっと自分に嘘をついていたことを知りました。そして、自らの命を絶ちました。
子どもを愛すればこそ、きれいなものだけを与えようとしてしまう親も多いかと思います。愛を与え、教えることは大切なことです。ですが、そうやって育てられた子供は、世界の醜いところに耐えられるでしょうか?
親や、いつか親になる人に読んでもらいたい作品です。
蛇足
まるまるひと月も更新を止めてしまい申し訳ありませんでしたm(_ _)m
言い訳としては、4月の前半にスマホが故障しまして、買い替えやデータの引継ぎでわちゃわちゃしていたことがあります。まだ新端末に慣れていないため、今回は年代物の処理の遅いPCから記事を書いております。徐々に慣れていきたい。
さて、ジッドは文学において残した功績を認められ、戦後ノーベル文学賞を受賞した作家です。小説も書いていますが、母国フランスの植民地、コンゴの旅行記である『コンゴ紀行記』で有名です。彼は植民地の惨状を、自国政府の目を気にすることなく文学にしました。
彼はキリスト教に忠実である一方で、人間性を追求するためであれば世論を敵に回すこともいとわなかった作家であり、自らの情熱のままに世界に貢献した、ノーベル賞に値する作家だったと言えるでしょう。
このあたりで終わりにしたいと思います。お読みいただきありがとうございました。